相模原市南区。
夜、この町を歩いていると、あちこちから虫の声が聞こえてくる。
秋の虫たちの合唱団である。
何種類いるのかは知らない。そもそも僕は、鳴き声を聞いて「これはスズムシ」「これはコオロギ」と判別できるほど虫に詳しくない。
ただ、いろいろな声が重なって聞こえてくるのは心地が良い。
あれもたぶん、虫たちなりの愛のメッセージなのだろう。
しかし、こういう音も緑が少なくなれば消えてしまう。
それはちょっと寂しい。
我が家のすぐ先には国道16号が走っていて、その向こうには森が広がっている。
歩道を歩いていると、16号を走る車の音と虫たちの声が混じって聞こえる。
静かな森の中で虫の声を聞いているわけではない。
夜のまばらな車の間に、虫たちのラブソングが流れる。
これはこれで夜の風情というものだろう。
そんなことを考えながら、自宅へ急ぐ。
なにしろ、我が家にも庭がある。
20平米くらいはあるだろうか。
ウッドデッキがあって、芝生があって、シンボルツリーが一本ある。足元には草花もあるし、アプローチにはちょっとした茂みもある。
ウッドデッキに腰掛ければ、さぞかし秋の虫たちの声が――
聞こえない。
なんで、オレの庭静かなんだよ!?
近所の空き地にはいる。
150mほど先の森には当然いる。
でも、我が家の庭にはいない。
なんでだろうと考えてみたのだが、まあ、考えるまでもないのかもしれない。
芝生は手入れしている。
伸びれば刈る。
シンボルツリーの足元も、下草が茂っているわけではなく芝生である。多少の雑草は生えているけれど、基本的には人間が管理している。
落ち葉も取り払う。
人間から見れば、緑のある庭である。
しかし虫から見れば、ずいぶん住みにくそうな場所なのかもしれない。
近所には空き地がある。
少し飛べば森まである。
わざわざ綺麗に刈られた我が家の芝生に住む必要がない。
なるほど。
緑があることと、自然があることは、どうも同じではないらしい。
では、虫たちが住みやすいように庭を変えてみようか。
落ち葉を残しておく。
草も伸ばしておく。
虫が隠れられる場所をたくさん作る。
……。
それは嫌だな。
僕は秋の虫たちの合唱が好きなのであって、虫そのものは嫌いなのである。
国道16号を歩きながら、虫の声っていいなあ、森が残っていて良かったなあ、などと思っている。
そして家に帰れば、落ち葉を拾い、雑草を抜き、芝を刈る。
その結果、庭は静かである。
まあ。
虫の声は聞きたい。
でも、虫には来てほしくない。
どうしたもんですかね。