銀行口座とクレジットカードを作ることにした。

ソフトを作り始めたあと、会社ごっこをするには、まず財布が必要だと思ったからだ。

もちろん、まだ会社ではない。売上もないし、法人登記もしていない。

それでも、銀行を調べたり、カードを比較したりしている時間は案外楽しい。

きっかけは、川邊健太郎さんだった。

あれだけ大きな会社を率いた人が、その立場を離れたあと、また一人で新しい挑戦を始めている。その姿を見て、格好いいなと思った。

「自分も起業しよう」と思ったわけではない。

ただ、好きなものを一から作って育てるということを、もう一度やってみてもいいのかもしれない。そんな気がした。

そこで、前から作りたかった stash を作り始めた。

なんとも言えないツールだ。

何かを創作する道具ではなく、気になったものをしまっておいて、あとで取り出すための道具。自分が欲しかったから作る。ただ、それだけだ。

考えてみると、僕は色々な仕事をしてきた。

EC の仕事なら、商売そのものに興味がある人が強い。

介護の仕事なら、介護を何とかしたいという人が強い。

エンゲージメントサーベイなら、人や組織そのものに興味がある人が強い。

どれも素晴らしいことだと思う。

ただ、少なくとも僕は、その人たちと同じ温度ではいられなかった。

「介護の不便を改善したい」という人の熱量は、本物だと思う。

でも僕は、その熱量を持てない。

じゃあ、自分は何に興味があるんだろう。

そうやって振り返ると、昔から一つだけ変わっていないものがあった。

中学生の頃、RPG ツクールを触った。

その頃は、別に「道具作りが好きなんだ」なんて思っていない。

大学では UNIX の思想に触れた。

一つのことをうまくやる、小さな道具を組み合わせる。そんな考え方は、とても好きだった。

そして今になって思う。

僕が好きなのは、業界ではなく、道具なんだ。

PHP の作者であるラスマス・ラードフは、「PHP は歯ブラシみたいなものだ」と言ったそうだ。

毎日使う。

ちゃんと仕事をする。

でも、それ自体を熱く語る人はあまりいない。

僕は、この例えが昔から好きだった。

傘もそうだ。

毎日持ち歩くわけじゃない。でも、雨の日には困る。

特別じゃない。でも、良い傘は長く使いたくなる。

そんな道具が好きだ。

だから stash も、「世界を変えるサービス」を目指しているわけではない。

自分が毎日使いたくなるような道具を作りたい。

その結果として、会社という箱が必要になってきた。

そんなわけで、まずは財布を用意することにした。

まだ会社ではない。

でも、ソフトがあって、銀行口座を考えて、クレジットカードを選んでいる。

会社ごっことしては、だいぶ形になってきた気がする。